パイプの愉しみ方

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続 偽ダンヒルパイプにご用心 その13  嗚呼、汗顔の至り

日本パイプクラブ連盟副会長 岡山パイプクラブ会長 香山雅美

 

三年前から「偽ダンヒルパイプにご用心」の拙い記事を日本パイプクラブ連盟(PCJ)のウェブサイトに連載させて貰っているが、反響の大きさに私自身が一番驚いている。日本国内だけでなく、今では海外のパイプ喫煙愛好家からも注目を集めるようになった。

 

元々はPCJのホームページ編集担当者との酒席での懇談で「偽ダンヒルが横行していて困るよね」と呟いたところ、「香山さん、一度その話を書いてみて」と依頼されたのが発端だ。そこで単発の読み切り記事、長くても2、3回程度のつもりで書いたのだが、思わぬ反応の良さにズルズルと連載となった次第だ。

 

読み物記事である以上、読んで勉強になるだけでなく、面白くなくては読者が食いつかない。そもそも学究肌ではないし、石部金吉とは程遠い遊び人タイプの剽軽者だ。そこでついつい筆が滑って私自身の馬鹿げた失敗談や身の回りの周辺雑記も織り交ぜて書いたら「自然体の文章で味がある」(編集担当氏)とか何とか褒められ、調子にのって恥ずかしい話も披露してしまうハメになった。

そこで今回は鑑定人としてあるまじき、私の失敗談を一つ紹介する。

 

連載を通じていつの間にかダンヒルパイプの真贋鑑定人として知られるようになり、友人知人だけでなく、全く面識が無いパイプ愛好家の方々からも鑑定を頼まれることが増えた。「先生、先生」と柄にもなく持ち上げて頂き、まさに汗顔の至りである。

 

過日、ダンヒル関係のある資料をつらつら読んでいたら、1960年代製造のダンヒルパイプの刻印にはアンダーバーがあるパイプと、ないものがあることを初めて知った。青天の霹靂というか私にとっては驚天動地の事態だった。というのも私がいっぱしのダンヒルパイプ蒐集家を自認して集めていた60年代のパイプには毎年の年号を示す数字の下にアンダーバーが全て刻んであった。だから60年代ものにはアンダーバーがあると完全に信じ込んでいたからだ。

 

とはいえ、にわかに信じ難かった。ダンヒルパイプに関係した諸資料には、たまに記述の間違いもある。資料に書いてあることが真実とは限らない。書いた人が勘違いしている恐れもたぶんにある。活字を軽々に信じてはならないことを私は経験で学んでいる。

 

そこで先日、そのことをダンヒルパイプについては私なんぞよりはるかに詳しいさる先輩スモーカーに会った際に確認したところ、「60年代の刻印にはアンダーバーがあるのとないのとが混在しているよ」とあっさり。「香山くん、そんなことも知らなかったの?」とまでは言わなかったのが武士の情けというところか。おまけに「60年代ものダンヒルパイプの真贋鑑定は、パイプの形状、刻印のスタイルでじっくり判断した方が良いよ」との貴重な助言まで頂いた。

 

その先輩によると、60年代ものの年号刻印にアンダーバーの有無の違いがある理由について、ダンヒル社の公式資料には何も触れてないという。その事情は概ね察しがつくが、この場では軽々に触れないでおく。天下のダンヒルでも緩いことがあるのだ。

 

そうなると私の鑑定結果を訂正しなければならない。ダンヒルパイプの鑑定を依頼され始めてからのこの3年の間に、アンダーバーが刻んでない60年代ものを5〜6本ほど見せて貰った記憶がある。全体の形状はダンヒルで間違いなかったが、アンダーバーがなかったので、私は真贋曖昧のまま「普段使いとしてお使い下さい」と言ってしまっていた。

 

私の思い込みによる勘違いと勉強不足だった。この場を借りて深くお詫びする。

言い訳になるが、一刀両断で「偽物です」と言わなかったのが今となってはせめてもの救いだ。

まあ、無料で鑑定させて頂いているので、間違いがあってもお許し下され。

 

なお、2026年の今年の東京でのパイプショーは、どうしてもはずせない所用が出来して参加できない。残念だ。私の無料鑑定をあてにしていたダンヒルパイプ愛好家の皆さん、ごめんなさい。来年、お会いできることを楽しみにしております。

 

ここまで読者の皆様に私のみっともない失敗を包み隠さず晒した。

口直しに少し話題を変えさせてもらいたい。

 

私は今まで「ヤ〇オクや〇ルカリ等々の通販で、高級品のダンヒルパイプを購入することはお勧めしない」と重ねて強調してきた。しかし運が良ければ本物の程度の良いダンヒルを手に入れられることもある。あくまで「運が良ければ」であることをお忘れなく。

 

最近、ダンヒルパイプの真贋鑑定を5人のパイプスモーカーから相次いで依頼された。合わせて40本ほどのパイプだ。参考までに入手先を伺うと、いずれもネット通販サイトで見つけて購入したものだという。

 

その中で、「間違い無く本物」と断定できるパイプが4本あった。ただ残りの30数本は残念ながら「普段使いとしてお使いください」だった。3年前は真贋の割合はほぼ半々だったと記憶しているから、最近になって偽物の割合が急に増えているのかもしれない。

 

本物4本の内の1本、「運が良かった」ケースを紹介する。

パイプ愛煙家がお亡くなりになり、ご遺族が価値がわからないまま遺品整理で出品されたものらしかった。様々なメーカーの使い古しの中古パイプが20本ほどまとめてオークションで出品されていたそうだ。ネット通販の競売だから、通常は二束三文の値段しかつかないものだ。その中にホワイトスポットは吸口に無かったが、シャンクにダンヒルの刻印があったパイプが1本混じっていた。

 

拝見した瞬間にその形状からして本物だと閃いたが、慎重に鑑定する必要がある。その結果、私はまさしく本物のダンヒルであると断定した。ダンヒルパイプの中でも高い値段で取引されるべき逸品だ。長年の使用でエボナイトの吸口が壊れてしまったが、故人の方は修理には出さずに、たまたまダボが同じ大きさの他社製品の吸口を嵌めて愛用しておられたようだ。

 

こういう埋もれてしまいそうな逸品をたまたま見つけるのが、鑑定の醍醐味だろう。新しい吸口をダンヒル社代理店の柘製作所に依頼すれば、本物のホワイトスポットが付いた吸い口を新調してくれるはずだ。それほどの費用はかからないと思う。

 

もう一つ、「運が良かった」ケースを紹介したい。私が東京在住のパイプ作家O氏のご自宅に遊びに行った時のことだ。そこでパイプ初心者の方にお目にかかった。その方が見事な銀巻きパイプを持っているのがチラリと見えた。私は一目でダンヒルだと直感した。何処で購入されたか伺うと、ヤ〇オクとのことだった。見せてもらうとやっぱりダンヒルの本物だった。かなりの金額で競り落としたそうだが、運が良かった。羨ましい!

 

逆のケースもある。

ある時、やはりネット通販で「ダンヒルの中古パイプ」なるものを大枚をはたいて入手なさった方から鑑定依頼を受けた。私は手に取ってすぐに「普段使いにどうぞ」と言ったが、その方は納得なさらない。確かにちょっと目にはダンヒルパイプに見える。刻印もそっくりだ。しかしパイプのボウルとシャンクの形状が変だし、吸い口のエボナイトの材質が異なる。決定的なのは刻印の年代がまるで合致せず、ホワイトスポットが偽物だということだ。

 

つまり中古市場に大量に出回っているC国の贋物作り工房の職人が真似た巧妙な偽ダンヒルなのだが、その方は「香山さん、あなたの鑑定には納得できないな。もっと権威のあるしっかりした人を紹介して欲しい」とおっしゃった。私が「いいですよ。私なんぞのレベルとは違って、きちんと真贋鑑定をしてくれる人がいます。どうしてもと言うなら紹介しても良いですが、お忙しい方ですので中々時間を作って頂くのは難しいかと思います。もちろん私のような無料鑑定とはいきますまい。それなりの謝礼というか鑑定料が必要です。それにわざわざ東京まで行かなければなりませんから旅費もかかりますよ」と言ったら、プイと横を向いてしまった。どうやら感情を害されたようだが、無礼な態度である。その人には追い討ちみたいだが、偽物と断定できる根拠をバシッと遠慮なく指摘した。

 

私は鑑定依頼してきた方の心情を慮って、やんわりと「普段使いとしてお使いください」という言い方をするようになった。昔、色々と真贋鑑定の極意を教わったダンヒル社営業部長氏からの直伝のソフトな伝え方である。要は相手との人間関係を壊したくないからだ。

 

でも面と向かって「納得がいかない」とまで言われると、そこは人間ができていないから、やはりカチンときて、なぜ偽物と鑑定するのかの根拠を具体的に示す時もある。ただ時には私自身が真贋不明と思うパイプもある。そういう時は決して断定しないように自分を戒めている。

 

最後にお願いがある。

私の拙い連載記事について「香山が書いたことくらいは、私は知っているぞ」と思っている知識自慢の読者の方がおられると思う。
そう思う方は、どうかご自身でご自分のパイプの知識についての原稿を書いて日本パイプクラブ連盟に電子メールで投稿して頂きたい。読者の投稿は大歓迎してくれるはずだ。
なぜなら、そういう貴重な知識はどこかに書き残しておかないと、その方がボケたり亡くなったら、永遠に消えてなくなるからだ。
パイプ関連の知識や情報で私が知っているのはごく僅かに過ぎない
パイプに関する貴重な情報は。パイプスモーカーの仲間で共有したい、若い方々に知識をどんどん提供したいと思っている。